2010-01-01から1年間の記事一覧

すべて嫌いならどうだっていい

「たとえば、笑いあう日々なんて、このオッサンの指さき、みたいなものだよね」 そう言って、大きく赤い文字で『国民が第一』と書かれ、すっかり色褪せ剥がれかけた選挙のポスターに視線を預けながら、ひとり薄々と笑いあった。 「大切な事ってさ、色の剥が…

ジンジンギター

昔々の話。ギターを弾きながら、歌のようなものをつくって、カセットテープレコーダーにひたすら録りためていた時期があった。 テープを止めて、巻き戻し、再生する。そこから流れてくるのは、私の頭の中の感覚とはまったく別の、ひどい音だった。リズムはガ…

かいわ

最近、何かひとつの物事に対して、手放しで賛成したり、楽しんだり、喜んだり、糞を投げつけてみたり、ということができなくなってきている。必ずと言っていいほど分裂した自己が現れる。 分裂した自己は、そのほとんどが、他者の考えであり、他者の目である…

記憶と喪失

過去の「喪失」について思いを巡らせていると、いつも同じ場所に辿り着く。小学校の高学年まで住んでいたアパートのことだ。小学生の頃、毎日一緒に遊ぶような一番仲の良い友達は、きまって一年足らずで引越していった。だから、雪が溶ける頃には、また「行…

見上げると、上空には、真っ黒い鳥が覆いかぶさっていた。その巨大な翼には裂け目があり、左の裂け目からは過去が、右の裂け目からは未来が、 それぞれ、 こちら側をギョロリと覗いていた。 ぼくは、いちばん長く、そして、いちばん醜い指先を、左の裂け目に…

no title

「それで、僕に一体何を求めているの?」ルーシーは言葉を返すことができず顔を真っ赤にして俯いた。その場から立ち去るより全て握りつぶしてしまえばいい。ルーシーは自ら手錠を断ち切って炎のように燃え盛る掌をぐっと開き、めいいっぱい息を吸い込んだ。…

なまぬるい雨の降る夜

今よりも、もっとずっと酒の味などわからなかった頃。 暖かいような少し肌寒いような2月のおわり。あの日もなまぬるい雨が降っていた。 何かの同窓会だったと思う。旧友数名と再会した。あの子もすっかり変わってしまっていた。私は、昔のように屈託なく話…