見上げると、上空には、真っ黒い鳥が覆いかぶさっていた。

その巨大な翼には裂け目があり、左の裂け目からは過去が、右の裂け目からは未来が、
それぞれ、
こちら側をギョロリと覗いていた。


ぼくは、いちばん長く、そして、いちばん醜い指先を、左の裂け目に突っ込んで、

壺の底を這いずり廻る蟲のように、

わずかにへばりついた蜜を、

こそぎとり、

指先が千切れるほどしゃぶっては、

右の眼のガラス玉から夕日の雫を流し続けていた。