言葉を埋葬して、月へ

道づれを求めて、誘うことばを探していたのだろうのか。鏡の前で踊りつづけるのは苦痛だ。それが、自分の目にしか映らないのは、滑稽な悲劇だ。 一輪の花のような、花束のようなことば。温かいスープのようなことば。立ち昇る煙に似た。やわらかい手のひらの…

夜、散歩する

駅へ、帰り道を歩いていた。夜の緩まった寒さに、ふらりと何処か寄り道をして、腹を満たして帰りたい気分になった。 そんなときによく立ち寄る店があり、理由は、店の古さが呼吸に馴染むからだ。そうして、今日もその古ぼけた暖簾をくぐり、ホルモン定食を頼…

すべて嫌いならどうだっていい

「たとえば、笑いあう日々なんて、このオッサンの指さき、みたいなものだよね」 そう言って、大きく赤い文字で『国民が第一』と書かれ、すっかり色褪せ剥がれかけた選挙のポスターに視線を預けながら、ひとり薄々と笑いあった。 「大切な事ってさ、色の剥が…

ジンジンギター

昔々の話。ギターを弾きながら、歌のようなものをつくって、カセットテープレコーダーにひたすら録りためていた時期があった。 テープを止めて、巻き戻し、再生する。そこから流れてくるのは、私の頭の中の感覚とはまったく別の、ひどい音だった。リズムはガ…

かいわ

最近、何かひとつの物事に対して、手放しで賛成したり、楽しんだり、喜んだり、糞を投げつけてみたり、ということができなくなってきている。必ずと言っていいほど分裂した自己が現れる。 分裂した自己は、そのほとんどが、他者の考えであり、他者の目である…

記憶と喪失

過去の「喪失」について思いを巡らせていると、いつも同じ場所に辿り着く。小学校の高学年まで住んでいたアパートのことだ。小学生の頃、毎日一緒に遊ぶような一番仲の良い友達は、きまって一年足らずで引越していった。だから、雪が溶ける頃には、また「行…

見上げると、上空には、真っ黒い鳥が覆いかぶさっていた。その巨大な翼には裂け目があり、左の裂け目からは過去が、右の裂け目からは未来が、 それぞれ、 こちら側をギョロリと覗いていた。 ぼくは、いちばん長く、そして、いちばん醜い指先を、左の裂け目に…

no title

「それで、僕に一体何を求めているの?」ルーシーは言葉を返すことができず顔を真っ赤にして俯いた。その場から立ち去るより全て握りつぶしてしまえばいい。ルーシーは自ら手錠を断ち切って炎のように燃え盛る掌をぐっと開き、めいいっぱい息を吸い込んだ。…

なまぬるい雨の降る夜

今よりも、もっとずっと酒の味などわからなかった頃。 暖かいような少し肌寒いような2月のおわり。あの日もなまぬるい雨が降っていた。 何かの同窓会だったと思う。旧友数名と再会した。あの子もすっかり変わってしまっていた。私は、昔のように屈託なく話…

no time

欲しい時間はどれくらい?失った時間よりも大きいかい?積み上げた砂の城。一瞬の決断とそれから続く長い迷い道。戻ることない道を戻れるようにと書き記す。指先が針金を滑る音が時刻を刻み、なくすはずはないものを追い続ける。欲しい時間はどれくらい?失…

叩きつけろ ただ嗅ぎつけろ 但し鍵は掛けない

ずいぶんと言葉を飲み込むのが上手くなった。おぎゃあと泣いたその日から苦笑いを噛み殺す現在に至るまで、だんだんと、吐き出す量より飲み込む量が増えていった。感情に秩序はなくそれはただ流れ消えゆく。言葉に魂があるのならば胎児のまま消えていった言…

My grand mother's dream

祖母が他界して10年経つ。 部屋の掃除をしていたら、押入れの奥から祖母の日記らしきものがでてきて、思わず読みふけってしまった。読んだ本の感想や他愛のない日常が書き連ねてあった。祖母は本が好きだった。祖母の部屋に入るといつも本を読んでいたのを…

はじめのはじめ

何かをはじめるってことは、何かが終わったってこと。内に向けて考える時間を少しだけ横に置いて、外に発信する時間の始まり。理由はなんだっていいや 誰かの何かの勧めと、きまぐれで始めてみる。少し誰かと繋がった気がした。それはたぶん気のせいなのだで…